白内障とは
白内障とは、目の中にある水晶体という部位が濁って、ものが見えにくくなる病気です。 水晶体はカメラにおけるレンズのような役割を担う無色透明の組織で、眼球内部のほぼ前面中央に位置しています。人がものを見る過程において、外から入ってきた光は水晶体を通り抜ける際に屈折して焦点が調節された後、眼底(眼球内部の奥)にある網膜へと届けられます。さらに網膜は受け取った光を色や形といった視覚的な情報に変換し、それを視神経経由で脳に伝えます。こうして人は見ているものを映像として認識しています。 しかし、本来は透明な水晶体が白内障のせいで濁っていると、水晶体を通り抜ける際に光の一部が遮られたり、乱反射や拡散を起こすなどして、光が網膜まで十分に届かない状態に陥ります。それにより視界がかすんだり、ぼやけたり、視力が低下するといった白内障の症状が現れるのです。
白内障の症状
白内障は基本的には水晶体に発生する濁りによって視力が低下していく病気ですが、その濁りの程度や濁り方などによって、以下のようにさまざまな特徴的症状が現れます。
- 視界がかすんだり、ぼやけて見える
- ものがだぶって見える
- 明るいところに出ると過度にまぶしく感じる
- メガネの度数を調整しても視力が矯正できない
- 黒目の中心部分が白っぽい
白内障の原因
白内障で水晶体に濁りが発生する原因は、先天性と後天性のものに大きく分けられます。 中でも大半を占める代表的な原因として広く知られているのが、加齢による後天性の白内障です。一方、先天性の白内障は小さな子どもを中心に発症し、加齢以外を原因とする後天性の白内障は年齢に関係なく若い世代にも発症します。 より具体的には以下のように分類されています。
加齢性白内障(老人性白内障)
加齢が原因となって発症するもので、白内障の大半を占める最も患者数の多い種類です。 白内障は経年の紫外線曝露などから水晶体が劣化して起きる老化現象ともいわれていて、特別な原因がなくても歳をとれば誰にでも起きる病気とされています。したがって高齢になるほど発症率が高まり、80代では自覚症状の有無にかかわらず、ほとんどの方に何らかの白内障の状態が認められるといわれています。 ただし、程度には個人差があり、早ければ40代から症状を感じ始める人もいれば、高齢になってもほとんど症状を感じない人もいます。
先天性白内障
遺伝や母体からの感染などによって、生まれつき水晶体に濁りがあることで発症する白内障です。特に新生児や乳幼児の場合、白内障によって外からの光が網膜に届きにくい状態が続くと、正常な視力の発達が妨げられるおそれがあります。そのため、できるだけ早い時期に手術で治療する必要があります。一方、成長にしたがって徐々に進行し、青年期までに発症する場合もあります。
他の病気に併発する白内障
ぶどう膜炎、緑内障、網膜剥離といった他の目の病気に合併して発症する併発性、糖尿病に合併して発症する糖尿病性、アトピー性皮膚炎に合併して発症するアトピー性などの白内障が存在します。どのタイプも年齢に関係なく発症する可能性がありますが、特に糖尿病性やアトピー性の白内障は、若い世代にも多く見られることで知られています。
外傷性白内障
目に負った怪我や衝撃によって水晶体が傷つくなどして発症する白内障です。
その他の白内障
過度の放射線を浴びたり、ステロイド薬を使用することなどによっても白内障が発症する場合があります。また、強い近視を持つ方は白内障になりやすい傾向があることが知られています。
白内障の検査
白内障の診断のためには、水晶体の濁りの状態や併発している病気の有無などを確認する検査が必要になります。眼科で行われる一般的な検査から手術が必要になった場合に受ける検査まで、主に以下のような検査が行われます。
視力・屈折・眼圧検査
視力検査で白内障による視力の低下状況を把握し、屈折検査で水晶体の濁りが外から入ってくる光の屈折をどの程度妨げているかを調べます。また、眼圧検査で眼圧(眼球内部の圧力)を測り、併発している病気の有無を確認します。
眼底検査
併発している病気の有無を確認するために、眼底鏡を用いて眼底を観察し、網膜などの状態を調べます。なお、水晶体の濁りが邪魔をして網膜を目視しにくい場合には、電位変化の波形で網膜の状態を調べる網膜電図検査や、超音波で眼球内部を観察する超音波検査を行って代わりとする場合もあります。
細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査
細いスリット状の光を目に当てて顕微鏡で観察し、主に眼球の前面付近にあるさまざまな部位の状態を調べる検査です。水晶体の濁りの位置や程度を調べるとともに、併発している病気の有無も確認します。
光干渉断層計(OCT)検査
併発している病気の有無を確認するために、近赤外線を当てて撮影した眼底の断面画像を解析し、網膜や視神経の状態を調べます。
角膜内皮細胞(かくまくないひさいぼう)検査
角膜(黒目の部分)の内部を構成する角膜内皮細胞の数が少ない場合、白内障の手術後に角膜が濁って視力が回復しない場合があるため、事前に数を調べます。
眼軸長(がんじくちょう)検査
白内障の手術で目に挿入する人工の眼内レンズの度数を決めるために、眼軸長(眼球の一番手前に位置する角膜から一番奥に位置する網膜までの距離)を測ります。
白内障の治療方法
白内障の治療には、症状の程度に応じて薬物療法か手術療法のどちらかが用いられます。 薬物療法は症状の進行を遅らせることしかできないので、ほとんどの場合はまだ症状が軽い段階の白内障にだけ選択されます。一方の手術療法は、白内障を完治させることのできる根本治療となります。 白内障は放置すれば必ず進行する病気です。きちんと眼科を受診して、その時々に応じた適切な治療を受けていくことが大切です。
薬物療法
まだ症状が軽微で日常生活にも支障を感じることがない段階では、ほとんどの場合、薬物療法が選択されます。治療は白内障の進行を遅らせる点眼薬の処方によって進められますが、基本的に薬物では既に発生している症状を軽減させたり、除去することはできません。したがって、定期的な受診の継続が必要になります。
手術療法
症状が日常生活に支障を感じるほど進行したら、手術によって白内障を完治させることができます。 当院では白内障の手術を日帰りにて行っております。手術の当日にご来院いただき、その日のうちにご帰宅いただける他、手術そのものも点眼麻酔によってほとんど痛みを感じることなく、通常10分以内の手術時間で終了します。
白内障手術の流れ
白内障の手術は主に「超音波水晶体乳化吸引術」と「眼内レンズ挿入術」という2つの術式によって、濁った水晶体を人工の眼内レンズに置き換えるという方法で行われます。この方法は眼科の分野において最も高度な進化を遂げた術式といわれており、日本だけでも年間約140万人もの方がその恩恵を受けています。 具体的には以下のような流れで行われます。
- 手術の対象となる方の目に点眼麻酔を行います。
- 眼球上の黒目(角膜)と白目(結膜)の境目付近を2~3mm程度切開します。
- 水晶体は水晶体嚢(すいしょうたいのう)という袋状の組織に包まれていて、その前面を前嚢、後面を後嚢といいます。このうち前嚢だけを切除して、中にある混濁を露わにします。
- 露わになった硬い混濁をを超音波で砕いた後、吸引して除去します。
- 残された後嚢の上に人工の眼内レンズを挿入して、手術が終了します。
術後は30分ほど安静に過ごしていただいた後にご帰宅いただけますが、その後の日常生活においては一定期間入浴などに制限が設けられたり、1~3ヶ月ほど感染症予防のための点眼薬を続けていただく必要があります。 なお、両目ともに白内障の手術を行わなければならない場合、片方の目を手術してからもう片方の目を手術するまでの間に最低でも1週間の猶予が必要になります。
眼内レンズについて
白内障の手術にて、濁った水晶体の代わりに眼球内へと挿入する人工のレンズを眼内レンズといいます。 眼内レンズには(近くに焦点を合わせる・遠くに焦点を合わせる)単焦点眼内レンズがあり、患者様の私生活に合わせて選択します。手術後、近くに焦点を合わせた場合、遠くを見る時は眼鏡・コンタクトが必要となります。また逆に遠くに焦点を合わせた場合、近くを見る時は老眼鏡が必要です。 したがってレンズの選択にあたっては、ご自分のライフスタイルやニーズを考慮しながら、医師と十分に相談を重ねた上で結論を出すことが重要です。
単焦点眼内レンズ
一定の距離にだけ焦点が固定されたレンズです。 また、近年では乱視の矯正を兼ねることのできる単焦点眼内レンズも登場しています。 単焦点眼内レンズを用いた白内障の手術には保険診療が適用されます。
乱視矯正:単焦点眼内レンズ
白内障手術では、乱視矯正用の眼内レンズ(トーリックレンズ)もあり、乱視矯正にも対応できます。 ※乱視には正乱視と不正乱視があります。不正乱視の場合は、乱視矯正できません。
分節型(多焦点)眼内レンズ (レンティス コンフォート)
レンティス コンフォートは、日本で初めての保険適用になった +1.5D加入の低加入度分節型眼内レンズです。 焦点の合う距離が一般の単焦点眼内レンズより広く、遠方から中間(眼前約70cm)までの距離が見やすくなります。
多焦点眼内レンズ
- 現在多くの種類が出ており、それぞれにメリット・デメリットがあリます。
- またその人によって適応があるため、全員挿入できるか診察しないとわかりません。
- また保険がきかないためにかなり高額となります。
- 当院では扱っていないため詳しくは多焦点眼内レンズを施行している眼科にご相談ください。
白内障手術の費用
単焦点眼内レンズの場合
単焦点眼内レンズを用いた白内障の手術には保険診療が適用されます。片目の手術費用は以下の通りです。
自己負担割合 | 自己負担額 |
---|---|
3割負担の方 | 約43,000円 |
2割負担の方 | 14,000円上限 |
1割負担の方 | 14,000円上限 |
※検査や処置、投薬などの内容によっては上記金額が前後する場合があります。あくまで目安程度にお考えください。
高齢者の方の自己負担額について
70歳以上の高齢者の方の場合、1ヶ月の間に医療機関などに支払った医療費の自己負担額の合計が以下の金額分までが上限となります。
所得区分 | 自己負担割合 | ひと月の自己負担上限額 |
---|---|---|
現役並み (年収約370万円~) | 3割 | 57,600円 |
一般 (~年収370万円) | 1割または2割 | 14,000円 |
住民税非課税等 | 1割または2割 | 8,000円 |
白内障手術に関するQ&A
1.手術を受けることが決まってから実際に手術を受けるまでに通院は何回必要?
通常は、術前検査、手術についての説明、最終検査と術前点眼薬処方の計3回ご来院いただきます。
2.手術までに自分で準備しておくことは?
医療費のお支払いに使用される各種医療保険のご確認をお願いいたします。また、可能な方はあらかじめどなたかに手術当日のお迎えをお願いしておくと、より安全にご帰宅いただけます。
3.一人暮らしでも手術を受けることはできる?
手術後は定期的にご来院いただいたり、ご自宅にて薬を点眼していただくなどのケアが必要になりますが、そうしたことがご自身で行える方なら全く問題ございません。一方、ご自身だけでは難しいという方には、入院の可能な提携病院をご紹介することで対応させていただく場合があります。
4.手術当日のスケジュールは?
手術前の準備(点眼等)ため、2時間前に来院していただきます。手術自体の時間は約10分、手術後の休憩に約10分がそれぞれ必要になります。ご来院いただく時刻などの詳しいスケジュールにつきましては、手術当日が近くなり次第お知らせします。
5.手術中に痛みを感じることはある?
点眼麻酔下で行われるので、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。
6.手術当日の帰宅時に迎えは必要?
手術当日は眼帯で片目を塞いだ状態でご帰宅されることになるので、安全面を考慮して、基本的にはどなたかによるお迎えをお願いしております。それが難しい場合には足もとに十分気をつけてご帰宅いただくか、当院受付にてタクシーをお呼びすることも可能です。
7.手術を受けた目は手術後にどう保護する?
手術後におつけした眼帯は翌日の診察まで外さないようお願いいたします。手術翌日より3日間は外が見える薄い眼帯を終日、その後3日間は就寝時のみ装着していただきます。
8.手術後に痛みを感じることはある?
チクチクあるいはゴロゴロといった違和感を覚えることはありますが、通常我慢できないほどの痛みを感じることはありません。また、痛み止めの内服薬を処方もいたします。ただし、明らかな痛みを感じるなど何らかの異常が生じた場合には、できるだけ早く診察をお受けください。
9.手術後は日常生活にどんな制限が必要?
目安として、主に以下のような制限が必要になります。 入浴:首から下のシャワーだけなら手術の翌日からOK、湯船に浸かるのは3日後より可能
洗髪:術後3日目からOK 洗顔:術後3日目からOK 飲酒:手術後1週間程度は禁止 運動:軽い散歩程度なら手術の翌日からOK、水泳や本格的なスポーツは1ヶ月程度禁止 この他詳しくは手術前の検査時にご説明しますが、ご不明な点はいつでも医師にお尋ねください。
10.手術後の診察スケジュールは?
まずは手術の翌日、3日後、6日後にご来院いただき、それ以降のスケジュールについては医師の指示にお従いください。
11.手術後メガネは必要でしょうか?
必要です。 眼内レンズは固定焦点のため遠方に焦点を合わせると近くが見えにくいです。 (老眼の状態) 近くに焦点を合わせると今度は遠くが見にくいです。 (近視の状態) このため見にくいところはメガネで補正します。
12.仕事はいつからできますか?
約一週間後より可能です。 (事務程度は眼帯をしていれば3~5日後からでも可能です。)