加齢黄斑変性とは
加齢黄斑変性は、網膜の中心にある黄斑という組織が加齢などによってダメージを受け、機能を低下させることで起きる進行性の病気です。
人がものを見るにあたって、網膜は外から入ってきた光の詳細を識別する重要な組織です。その識別の大半を担っているのが、網膜の一部として人の視力を司っている黄斑です。さらに、その黄斑の中心にはひときわ高い感度を有する中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる窪みがあり、この中心窩がものの色や形、大きさ、奥行き、距離といった詳細を感知し、識別しています。すなわち、人の視力の良し悪しは中心窩も含めた黄斑の健康状態によって大きく左右されることになります。
加齢黄斑変性ではこうした黄斑の機能がダメージを受けて低下することで、視力が低下するのはもちろんのこと、ものの見え方にもさまざまな異常が現れます。また、ダメージが中心窩にまでおよぶと、症状の程度がより深刻化して失明に至ることもあります。
加齢黄斑変性の症状
加齢黄斑変性によって人の視力を司る黄斑の機能が低下すると、視力そのものが低下するだけでなく、ものの見え方にもさまざまな異常が現れます。特に代表的な症状は以下の通りです。
視力低下
視力が低下して、ものがはっきり見えなくなります。
なお、屈折異常による視力低下ではないので、メガネの度数を調整しても視力を矯正することはできません。
変視症
ものがゆがんで見えるようになる症状です。歪視(わいし)とも呼ばれます。
何らかの原因で網膜の黄斑周辺が変形をきたすことによって、見ているものも本来とは異なるゆがんだ形状で視認されます。
中心暗点
視野(見える範囲)の中心が暗くなる症状です。
これにより見ようとして目を向けている部分が見えにくくなるので、本の文字を追いにくくなったり、文字を書くことが難しくなるなど、日常生活に支障をきたすこともあります。
色覚異常
視界のコントラストが低下して、色の判別が難しくなる症状です。
こうした症状の進行を許すと失明に至ることもあります。加齢黄斑変性は放置すれば必ず進行する病気なので、上記のような症状を少しでも自覚したら、できるだけ早く眼科を受診することが大切です。
加齢黄斑変性の原因
加齢黄斑変性は病名の通り高齢者に多く見られる病気で、発症リスクも加齢とともに高まりますが、他にも発症のトリガーとなる原因がいくつか明らかになっています。
具体的には、主に以下のような原因が挙げられます。
加齢
発症者の多くは高齢者で、特に50歳を超えると発症リスクが高まるとされています。
これには網膜やその下に層を成す網膜色素上皮細胞などに生じる老化現象が影響しているものと考えられています。
喫煙
喫煙しない方に比べて喫煙する方には明らかに発症しやすい傾向があることがわかっています。
偏った食生活
アメリカにおいては以前から加齢黄斑変性が失明原因として1位の病気でしたが、日本でもここ20年ほどで3位を占めるまでに患者数が急増しました。このことから、欧米風の食生活の普及が発症に影響しているのではないかという指摘があります。
また、それにともなって生じる高血圧や肥満などとの関連も指摘されています。
紫外線や青色光線
太陽光に含まれる紫外線(UV)やパソコン・スマートフォンの普及などで昨今浴びる機会の増した青色光線(ブルーライト)によって網膜に与えられるダメージが発症の一因になっているとも考えられています。
加齢黄斑変性の種類
加齢黄斑変性は大きく分けて萎縮型と滲出(しんしゅつ)型の2タイプに分類され、それぞれに発症のプロセスや症状の現れ方が異なります。
萎縮型
眼底(眼球内部の奥)の内壁を構成する複数の層のうち、網膜色素上皮細胞が成す層の下に加齢とともに老廃物がたまっていき、その影響で黄斑も含めた網膜が徐々に萎縮していくことで発症するタイプです。
このタイプは視力低下をはじめとする諸症状の進行が比較的緩やかで、萎縮が中心窩にまでおよばない限りは重大な視力障害にまで進展することもありません。
滲出型
眼底の内壁を構成する複数の層のうち、一番外側を成す脈絡膜から新生血管と呼ばれる異常な血管が発生し、上層の網膜色素上皮細胞まで伸びることによって、網膜や黄斑に障害がおよんで発症するタイプです。
急ごしらえで作りの脆い新生血管は、上層まで伸びると破れて出血したり、血液の成分を滲出させるなどして網膜にむくみ(浮腫)を生じさせます。それにより黄斑の働きが阻害されると、視力低下をはじめとする諸症状が急速に進行します。
日本人に多いのはこちらのタイプです。
加齢黄斑変性の検査
加齢黄斑変性の診断には、問診で見え方の自覚症状などを確認するとともに、以下のような検査を行う必要があります。
視力検査
視力を測定し、加齢黄斑変性による視力の低下状況を確認します。
眼底検査
眼底鏡や眼底カメラを用いて眼底を観察し、網膜に生じた出血や浮腫などの状態を調べます。
蛍光眼底造影検査
蛍光色素入りの造影剤を腕の静脈から注射して、特殊なフィルター越しに照らした眼底を眼底カメラで撮影し、網膜や脈絡膜の血管の状態を観察する検査です。詰まっている血管は暗く、滲出している血管は明るく写ります。
光干渉断層計(OCT)検査
近赤外線を当てて撮影した眼底の断面画像を解析し、網膜に生じた浮腫や脈絡膜に生じた新生血管の状態を立体的に調べます。
その他
碁盤の目にも似た格子の中心に小さな黒い点が記された自己チェック用のアムスラーチャートを用いれば、加齢黄斑変性の症状の有無を片目ごとに簡易チェックすることもできます。ただし、正確な診断のためにはきちんと眼科を受診することが大切です。
加齢黄斑変性の治療方法
抗VEGF療法
新生血管の成長を活性化させるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)というタンパク質の働きを抑える抗VEGF薬(抗血管新生薬)を眼球内部の硝子体(しょうしたい)に注射することで、新生血管の成長を阻止する治療法です。
抗VEGF薬療法の費用
加齢黄斑変性の抗VEGF薬療法は健康保険が適用されます。負担額は以下のようになります。
3割負担 | 約50,000円 |
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2割負担 | 14,000円上限 |
1割負担 | 14,000円上限 |
レーザー光凝固術
レーザー光線で新生血管を焼き固めることで、新生血管の成長を阻止する治療法です。
ただし、視力に影響を与えないよう、新生血管のある位置が黄斑部(中心窩)を外れている場合にしか適応することができません。
レーザー光凝固術の費用
加齢黄斑変性のレーザー光凝固術は健康保険が適用されます。負担額は以下のようになります。
3割負担 | 約30,000円もしくは約45,000円 |
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2割負担 | 14,000円上限 |
1割負担 | 14,000円上限 |
日常生活での対策
加齢黄斑変性は、年齢を重ねればどなたにでも発症する可能性のある病気です。以下のような点に注意することで日常の中に潜む危険因子の回避を心がけ、少しでも発症リスクが抑えられるような生活を送りましょう。
喫煙を控える
喫煙は加齢黄斑変性において最大の危険因子ともいわれているほど発症リスクを高める行為であることが明らかになっています。どうしてもやめることのできない方は禁煙外来を利用するなどして、すみやかに禁煙を励行しましょう。
紫外線や青色光線に気をつける
紫外線(UV)と青色光線(ブルーライト)は眼底まで届いて網膜にダメージを与えるといわれている高エネルギーの光線です。
紫外線は主に太陽光に、青色光線は主にパソコンやスマートフォンなどが発する光に含まれています。外出時には帽子やサングラスを着用したり、情報端末の使用中には休憩時間を挟むなどして、こうした光線を目の直接浴びる機会を減らしましょう。
バランス良く食べる
加齢黄斑変性の発症予防に効果が期待される主な栄養素には、抗酸化作用があるビタミン(ビタミンC、E、ベータカロテン等)、ミネラル(亜鉛等)、カロテノイド(ルテイン、リコピン等)が挙げられます。中でもルテインには黄斑を保護する作用があるといわれています。
これらを豊富に含む緑黄色野菜や豆類、牡蠣などの魚介類、海藻類といった食品を積極的に摂取するとともに、栄養バランスが整うよう毎日の食事内容に気を配りましょう。